2012年6月14日木曜日

いきなりトップスピードは、水道から水が出るようなものである

いす(1)先日、マイケル・サンデルさんの授業の収録でNHKに行った時のこと(番組は好評で、BS1で、6月17(日)午前1時から2時49分(16日(土)の深夜) に再放送されるそうです!)。一つ、びっくりしたことがあった。サンデルさんが入ってきて、いきなり収録が始まったのだ。

いす(2)丸いセットにサンデルさんが歩み入ると、間髪を入れず、本題を切り出した。その様子を見ていて、ああ、サンデルさんは「役者」でもあるのだと思った。ハーバードの『ジャスティス』の授業は、一つの演劇でもある。そして、いきなりトップスピードに入るのだ。

いす(3)いきなりトップスピードに入る、というと思い出すのがタイガー・ジェット・シンである。猪木が花束贈呈を受けていると、サーベルで殴りかかる。段取りや根回しなしで瞬時に本題に入る。その生命のリズムが心地よくて、私は子どもの頃シンのファイトを見るのが大好きだった。

いす(4)橋下徹さんもいきなりトップスピードの人である。記者会見などを見ていると、会見場に入ってくるなり、いきなり本題に入る。あのスピード感が、従来の政治家のもたもたした感じから一線を画していて、好感を持てる。あのリズムでやらないと、疾走する現代においては適応できないと思う。

いす(5)そして、話題のTEDもまたいきなりトップスピードのスタイルであることは言うまでもない。もともと各スピーカーに割り当てられた時間が短いが、その時間を一秒もムダにしないように、すぐに本題に入る。日本のモタモタ、うだうだのスピーチを見慣れた人にとっては、剛速球に見えるだろう。

いす(6)パブリックな現場でいきなりトップスピードの人を見ると好感が持てるのは、ふだんもそうだと推論できるから。サンデルさんがハーバードの部屋で仕事をする時、おそらく座ってすぐに没頭するのだろう。他人の目に見えるところでいきなりトップスピードの人は、誰がいなくてもそうしている。

いす(7)逆に、パブリックでうだうだ、もたもた、根回し、段取りの人を見ていると、一人で仕事をしている時にも同じなのだろうと推論が働く。人が見ていないところで何をやるかが圧倒的に大きな意味を持つ。だからこそ、他人が見ている時くらい、うだうだもたもたしてはいけないのだ。

いす(8)いきなりトップスピード、というと、難しそうだが、要は脱抑制。抑制を外してあげれば、あとは蛇口から水が出るように簡単にできる。いきなりトップスピードができる人は、脱抑制の達人である。うだうだもたもたの人は、自分だけでなく他人も抑制する。だから迷惑である。

いす(9)日本人が脱抑制が比較的ヘタなのは、子どもの頃からちいちいぱっぱで抑制しておとなしくすることばかり学んでいるだろう。日本の世直しのために一番必要なことは、賢く脱抑制することを学ぶことかもしれぬ。いきなりトップスピードの練習を、誰も見ていない時からやるように心がけよう。