2012年2月19日日曜日

タイガージェットシンのようにいきなり、トップスピードで疾走しよう

たと(1)小学校5年生のとき、島村俊和に「プロレス見に行こうぜ」と誘われた。越谷市民体育館の前で待っていると、次々と選手が入ってくる。アントニオ猪木さんなどは、笑顔で握手してくれた。しかし、島村に事前に言われていた、ある恐ろしい「警告」があった。

たと(2)「他の選手は演技だけど、タイガージェットシンだけはマジだから、絶対に目を合わせるな。なぐられて、怪我をしたファンもいるのだから」。やがて、車が停まって、シンがやってきた。すでにサーベルを持って狂乱。(あれは、銃刀法上どうなっていのだろう)ぼくは必死に目を伏せた。

たと(3)いよいよ試合開始。タイガージェットシンが入ってくると、越谷市民体育館は熱狂の嵐になった。猪木が、和服を着た美人から花束贈呈をされていると、いきなりシンがサーベルを持って乱入して、花束を蹴散らし、猪木に襲いかかった! 二人は場外へ! 突然の場外乱闘!

たと(4)猪木も反撃し、体育館のパイプ椅子を持ち上げて、タイガージェットシンに殴りかかる。シンが逃げて、椅子をなぎ倒す。それをスポットライトが追って、お客さんが逃げ出す。「お〜きをつけください! お〜きをつけください!」と、煽るような場内アナウンスがある。

たと(5)シンと猪木があっちへ行き、こっちに行くたびに、パイプ椅子がなぎ倒されて、観客がわーっと逃げ惑う。スポットライトが追い、場内アナウンスがいやが上にも興奮をかきたてる。もうそれがスリリングでたまらなくて、あんなにわくわくしたことは、生涯でその前にも後にもない。

たと(6)やがて、「よきところで」ゴングがカーンとなって、場内アナウンスが何ごともなかったかのように「ただ今試合が始まりました」と言った。猪木もシンも、普通にリングで試合をしている。私は、それじゃあ、今までのシンの乱暴狼藉は良いことになったのか、反則負けじゃないのかと思った。

たと(7)振り返ってみると、そこにかけがえのない宝ものがあったことに気付く。和服美人が花束贈呈は、根回しや段取りにがんじがらめになっている現代日本。それを、タイガージェットシンがいきなりトップスピードで乱入して、蹴散らしていく快感。だからこそ、シンは日本で人気があったのだろう。

たと(8)「いきなりトップスピード」というのは、日本の武術の伝統だったはず。坂本龍馬がおりょうと鴨鍋を食べてリラックスしているときに新撰組が襲ってきたら、「あと10分でぞうすいまで終わるから待っててくれ」とは言わない。いきなりトップスピードにならなくては、命があぶない。

たと(9)だから、タイガージェットシンの「いきなりトップスピード」は、日本の伝統を教えてくれていたんだね。平成日本には、組織や肩書きや言い訳に守られているおじさんがどれほど多いことだろう。裸で瞬時に疾走し始める。そんなタイガージェットシンの教えを、もっと大切にしたい。