2012年2月26日日曜日

人生はいつも、初めてを求めて

じは(1)来る時はJALだったので、機内は日本の雰囲気だった。私たちがよく知っている、日本人らしい心の使い方。気配り。それが、飛行機が着いて、空港に一歩踏み入れた瞬間に空気が変わる。おお、アメリカに来たんだ! 一気にモードが変わる。これが、旅することの醍醐味。

じは(2)何か経験すると、脳の中で「報酬」を表す物質であるドーパミンが出る。そのことによって、直前にやっていた行動の回路が強化されるという「強化学習」が起こる。アメリカに来ると、何かうれしいことがあるから、またアメリカに来ようと思うのだろう。強化学習は、毎回起こっているはずだ。

じは(3)しかし、本当は、一発目の強化が一番深かったはず。思い出す。アメリカの地を踏んだのは、15歳の時の最初の海外旅行。ヴァンクーバーへのトランジットで、まさにこのロサンジェルズ国際空港に下りた。そしたら、いろいろな雰囲気の人がわーっといて、黒人の人が大きな荷物を動かしていた。

じは(4)15歳になるまで、ずっと日本にいたわけだから、その光景を見て衝撃を受けた。これが、「人種の坩堝」と呼ばれるアメリカか、と思った。以来、本格的なアメリカ体験は、二十歳すぎで訪れた日米学生会議まで待つことになる。その時、振り返れば面白いことがあった。

じは(5)日米学生会議には、私のような日本で育った人間と、帰国子女でほとんどアメリカにいたような人が混在していた。それで、ミシガンやシカゴをめぐりながら、感激していたのは私の方だったと思う。いろいろが初めてだったから。一方、アメリカ慣れしている人たちは、それほどでもなかった。

じは(6)何かに慣れてしまうことの怖ろしさが、ここにある。ドーパミンが出て、強化学習が起こる。その効果が最も大きいのは、いちばん最初の時。二度目以降、私たちは慣れてしまって、もちろんゼロにはならないけれども、脳の可塑性に対する効果は、次第に薄れていってしまう。

じは(7)ビールを飲むとドーパミンが出て強化学習が起こり、もっと飲みたくなる。でも、本当は、生涯で最初に飲んだビールが一番衝撃で、効果的だったはずだ。キスだって、ファーストキスがいちばんインパクトを持ったはずだ。私たちは、忘れて、すっかり慣れたような顔をして生きているけれど。

じは(8)子どもの頃は、何しろこの世に生まれ落ちてまだ日が短いんだから、昼夜の変化や、水がしたたることや、季節が変わることや、すべてが「初めて」で強烈なインパクトがあったはずなんだよね。だから子どもはきゃっきゃっ騒いで、この世に生きることに慣れて退屈している大人たちに怒られる。

じは(9)脳の可塑性に訴えるためには、何しろ、人生で初めてのことをやるのがいい。だんだんそれが難しくなってきても、それでも求め続けるのが人生の最大のポイント。挑戦し続けること。出会うこと。気付くこと。受け入れること。人生で初めてを求めて、ロングビーチに来たような気がする。