2012年5月21日月曜日

日食は不意打ちが一番だが、それだと見逃してしまうこともある

にそ(1)浅井愼平さんと対談した時のこと。浅井さんは、ビートルズ来日公演の際の写真で有名だが、ビートルズとの出会いは、「不意打ち」だったという。 ある日、ラジオから流れてきたその楽曲に、「これは何だ」という衝撃を受けた。全ての出会いの中で最良のものは「不意打ち」だと浅井さんは言う。

にそ(2)不意打ちには、独特の切なさがある。たとえば、誰かが自分のことを褒めていたと、第三者から聞くのは価値がある。ひょっとしたら、伝言ゲームが 成立していなかったもしれないというはかなさ。本人から直接言われるよりも、途切れていたかもしれないという偶有性にざわざわするのだ。

にそ(3)日食との最良の出会い方は、「不意打ち」だろう。皆既日食、金環日食それぞれに、もし知らないでそれに出会ったとしたら、私たちはどんな印象を 受けるか。昔の人は、そうだった。今日も、ひょっとしたら、日本に数百人くらいは、金環日食にそれと知らずに出会った人がいるかもしれぬ。

にそ(4)途中から公園の森の中に身を置いて、金環日食を見ていた。もし、今日日食が起こるということを知らないとしたら、どのように感じるだろうとそれ ばかり考えていた。木漏れ日を見たとき、三日月がたくさんあって驚いた。もし、事前に知らなかったら、それで気づくだろうか。

にそ(5)関心があったのは、どれくらい暗くなるのか、ということである。食分が約0.96.4%の光は地球に届くのだから、それほど暗くはならないだろう、とは考えていた。もう一つは風。温度差が生じることによって、日食の際には、強い風が吹くことがあるという。

にそ(6)それは、気配として始まった。食分が増えていくにつれて、次第に、太陽の光に陰りがあるように思えた。鳥たちも反応して、空を行き交っている。 やがて、あたりは夕暮れのようになってきたが、それでも、肉眼で太陽のあたりをさっと見ると、いつもと変わった気はしない。

にそ(7)いよいよ金環日食になった瞬間の驚き。ちょうど雲が薄くかかっていたこともあって、太陽の中に、月の影がはっきり見えた。その時だけ、いつもの 太陽と明らかに様子が違っていた。もし、事前に日食を知らずに空を見上げた人がいたとしたら、太陽に瞳が出来たかと、びっくりするだろう。

にそ(8)もし、金環日食を事前に知らず、日食眼鏡も持っていない人がいたとしたら、こんな経験だったろう。太陽に力がない気がする。三日月形でも光が出 ている間は、まぶしくてそれとわからない。ところが、金環日食になった瞬間、太陽の真ん中に瞳が出来る。瞳は、こっちをじっと見ている。

にそ(9)科学文明全盛の私たちは、いつ日食が起こるのか、どのように起こるのかを知ってしまっている。最良の日食は、不意打ちで経験するもの。しかし、 それでは見逃してしまう可能性もある。日食に相当する配列の奇跡は、生活の様々な側面で起こる。不意打ちの「日食」に、いつも身構えていること。