2012年1月4日水曜日

幸せとはバランスのことであるが、そんなことを考えないのが一番幸せである

しそ(1)昨日、リールのレストランでクルーたちとご飯を食べていたら、パリ在住の江口さんが、突然「幸せってなんだと思いますか?」と聞いた。ディレク ター=監督の牛山さんが言ったことがひどくて出鼻をくじかれたけれども、カメラのアパッチ青木さんの答えは、ぼくもそう思えるものだった。

しそ(2)アパッチ青木さんは、「自分のところには来るまい、と思っていたものが来たとき」と言った。本当にそうだな、と思う。そしてそれは幸せの一つの かたちであって、全てではない。福音以外にも、日々の命の調和の中に幸せがある。幸せとは、一つのバランスのことである。

しそ(3)そしたら、江口さんが、パウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』のことを話し始めた。城主が少年に、スプーンをもたせて、オリーヴオイルを満 たす。そして、スプーンを持って、城の中を一周してきなさいと言う。少年は、オリーヴオイルをこぼさないようにしながら、一周してくる。

しそ(4)少年がもどってきた時、城主が「すばらしい絵をみたか」「庭師と話したか」と聞くと、少年は、「いいえ、スプーンの中のオリーヴオイルをこぼさないのに精一杯で見ませんでした」と答える。城主が、「それはもったいない、もう一周してきなさい」と少年に言う。

しそ(5)少年は今度は部屋にかかっているすばらしい絵を見たり、美しく整えられた庭に感嘆する。戻ってきて城主に、「すばらしいものを見ました」と報告 する。城主が、「スプーンの中のオリーヴオイルはどうした?」と聞くと、少年は夢中になっていたから、すべてこぼれてしまっていた。

しそ(6)物語の結論は、人生とは、スプーンの中のオリーヴオイルをこぼさないようにしながら、すばらしい絵や美しい庭を見ることが幸せ、だということ。 つまり、人生の目的(=ライフワーク)を忘れない一方で、日々出会う思いもかけぬものをきちんと見て、楽しむことなのだろう。

しそ(7)ちょうど、パリの蕎麦屋さん、円(YEN)で、中山美穂さんと「アルケミスト」の話をしたばかりだった。その時のドキュメンタリーのディレク ター(監督)が牛山さん。江口さんはさらにUFOの話をはじめて、半分に割ったらU2が出てきたとか、他愛もない話をした夕べは楽しかった。

しそ(8)幸せとは、workとlifeの間とか、失敗と成功とか、努力と弛緩とか、予想と意外とか、さまざまなものの間のダイナミックなバランスのことなのだろう。それこそが、生命の本質。一つのことのみにこだわる原理主義は、その性質からして、もっとも幸せから遠い。

しそ(9)そして、幸せの原風景が子どもの時代にあるように、本当は、「幸せってなんだっけ?」と取りたてて問わない、無自覚な日常が幸せなんだろうと思 う。江口さんの問いかけで、ぼくたちは幸せについて考えた。そして、談笑の中に没入して我を忘れたとき、本当に幸せになっていた。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。