2012年1月28日土曜日

脳の中の、カードを一枚一枚そろえていこう

のか(1)昨日、自由報道協会の一周年の賞の授与式でプレゼンターをした。上杉隆(@uesugitakashi)に頼まれて行った。それで、スピーチの時に、久しぶりに噴火してしまった。でも、その時一番言いたかったことは、「人間には、やりたくてもできないことがあるんだよ」ということ。

のか(2)心を入れかえて、明日から行いを改めれば変わるほど世の中は甘くない。悪意や怠慢でやらないんじゃなくて、要するにできないのだ。人間には自由意志はない。自然は飛躍しない。すべては連続して変わっていく。だからね、そういうことなんだよ。

のか(3)記者クラブというものは、誰がどう見たってそれが存続する合理的な根拠なんてありはしない。それでも廃止しないのは、つまり悪意や怠慢じゃなくて、(能力的に)できないのだと思う。それは記者さんたちだけの責任ではなく、日本の社会自体がそうなっている。

のか(4)できないというのは、もちろん自分にも向けられる。このところ、私は、自分が情けなくて、社会のことよりも自分を何とかしたい、変えたいという思いが強く、あまり社会のことは言わなくなっているけど、昨日は上杉隆もいたし、ひさびさの噴火だった。すまんことです。

のか(5)私は、二十歳くらいから英語でばんばん本を書くべきだと主張し続けているのに、未だにできていない。これも、単純にできなかったのだと思う。今、ものすごい勢いで必要な要素をそろえつつあるが、それをやってみて始めて、ああ、オレにはカードが揃っていなかったのだと思う。

のか(6)若いときはバカだから、こんちくしょう、明日から心を入れかえてやるぞ、今すぐすべてを! なんてドイツロマン派の疾風怒濤みたいなことを言っていたけど、冷静になって考えてみると、少しずつカードをそろえていくしかないんだよね。毎日、丹念に。

のか(7)人生を、突然大変化する「火成論」と、徐々に変化していく「水成論」とでとらえてみると、もちろん、衝撃の出会い、自分を揺るがす革命も大事だけれども、ほとんどのことは水成論でできている。その水成論で微少な変化を積み上げて、地殻変動に持っていくしかない。

のか(8)今の日本の大学が世界の二流になりつつあることは事実だし、iPhoneのような、情報ネットワークと結びついた「ものづくり2.0」の体制がまったくできていないことも事実だけれども、改善するためには、冷静にカードを一つひとつそろえていくしか、他に方法がない。

のか(9)カードは、本当は5枚のうち4枚もう揃っているのかもしれない。あるいは、2枚から3枚に増やすプロセスなのかもしれない。記者クラブの廃止という国際的に見れば当然のことも、カードを2枚、3枚とそろえていくしかないのだろう。自由報道協会、がんばってください。応援します。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。