2012年1月19日木曜日

デビューするときはいろいろあるよ

でい(1)20代の頃、「本を書く人になりたいなあ」と思いながら、なかなか果たせなかった。そしたら、親友の竹内薫(@7takeuchi7)が、あっさり「壁」を超えていった。日経サイエンスに企画を持ち込んで、『アインシュタインと猿』というパズル本を書くことになったというのである!

でい(2)ぼくは、竹内薫の行動力を凄い! と思いながらも、なかなか本を書くことができなかった。そしたら、竹内が徳間書店でも本を出すようになってきて、「茂木も、一緒に書かないか」とさそってくれた! ぼくはうれしかった!

でい(3)竹内が誘ってくれて、共著ながら、やっと初めての本を出すことになった。科学の限界についての本になるという。ぼくは張り切って、当時熱を上げていた心脳問題について、メーターが振り切れた原稿を書いた。書いていて、これはいいぞ、と自分でも思った。

でい(4)その頃のぼくは、出版界のシステムがよくわかっていなかった。たとえば、本のタイトルは著者が決めるとは限らないということ。出版社の編集者や営業が、市場の動向をにらみながら、売れそうなタイトルをつける。そんな事情が、ぼくはわかっていなかった。

でい(5)ぼくが渾身の力を込めて書いた「心脳問題」についての原稿。竹内の科学論についての原稿もそろって、いよいよ出版が近づいてきた。生まれて初めての本! ぼくは、だんだん興奮してきた。何でも、初めて、というのはいいものだなあ。

でい(6)忘れもしない。ある冬の夜。ぼくは、東京の下町で友人たちと飲んでいた。そこに竹内から連絡がきた。新しい本のタイトルが決まったというのだ。わくわく一体何なのだろう? 竹内は、自信ありげに宣言した。「トンデモ科学の世界」さ!

でい(7)「トンデモ科学の世界!」ぼくは、膝から崩れ落ちそうになった。なんじゃ、そりゃあ!(松田優作風に)。ぼくが、心を込めて書いた、心脳問題についての原稿が収められる本のタイトルが、「トンデモ科学の世界!」。ぼくは、受け入れられない現実を前に荒れて、その夜は酒を随分飲んだ。

でい(8)当時、「と学会」とかが流行っていて、「トンデモ」は一つの流行語だった。それで、編集者が工夫してつけたのだろう。竹内もにこにこ賛同を表していた。ぼくのデビューは「トンデモ科学」となった。お笑いの「出落ち」みたいなもので、そのトラウマは数年続いた。

でい(9)その後、月日は流れ、今思い出せばなつかしくも面白い、青春の一頁である。教訓は、「デビューするときはいろいろあるよ」ということ。それと、人を見かけで判断してはいけません。市場の暴力で、素とは異なるパッケージを押しつけられることはいくらでもあるんだから。アイドルとかもね。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。