2012年1月18日水曜日

クール・ジャパンもいいけど、まずはエスタブリッシュメントがクールじゃない自分たちを変えなくちゃね

くじ(1)村上隆さんの「クール・ジャパン」についての朝日新聞上の苦言( http://bit.ly/zUmg5L)が話題を呼んでいる。私自身も、経産省のクール・ジャパンのシンポジウムに登壇したこともあり、少しその実情を知るものとして、村上さんとは少し別の角度から論じてみたい。

くじ(2)経産省としては、グローバル経済がソフト化し、ものづくり2.0で情報ネットワークとのつながりが必須化する中で、コンテンツ産業を「日本が食う」ための有力な手段と位置づけ、そのためにインフラ整備をしようとしているのだろう。その点については共感できる。

くじ(3)クール・ジャパンのシンポジウムを見る限り、問題なのは、「本気」じゃないことである。村上隆さんを始めとするクリエーターが身体を削る思いで作品をつくり、苛烈な世界市場で競争する中で、日本の政府主導のプロジェクトに共通する、ぬるま湯、なあなあ主義の陰が見える。

くじ(4)村上さんが指摘されるように、致命的な欠点は批評性の欠如であろう。日本には、イギリスの「ターナー賞」のような論争的な評価のシステムがない。政府の役割は、民間がやったことを、追認するに過ぎないことが多い。ゆるいことではダメだというのは作者の側からすれば当然のことだろう。

くじ(5)ある時、私はトキワ荘の横を偶然通って、日本のアニメやマンガの文化が草の根から勝手に生まれてきたことを思い、感激を新たにした。政府の庇護など受けずに、エスタブリッシュメントからバカにされる中でサブカルは花開いた。政府の役割があるとしたら、まずは邪魔をしないことだろう。

くじ(6)先日、スプツニ子さん(@5putniko)が、ロンドン留学中、イギリスのオタクたちに、「お願い、パンを口にくわえて、(日本語で)たいへん、学校に遅れちゃう、って言って走って」と言われたと話していた。日本のサブカルに力があることは確か。しかし、それは政府の手柄ではない。

くじ(7)経産省の方々の話をうかがうと、「クール・ジャパン」のねらいは、まさに村上隆(@takashipom)さんが指摘しているような著作権関係の制度の整備、プラットフォームなど、個々のクリエーターでは届かない問題領域だという。だとすれば、そこでこそ本気になってもらいたい。

くじ(8)日本の現状を公平に見れば、だらしがないのは大学や官公庁などのエスタブリッシュメントである。サブカルはがんばってきた。本当に「クール・ジャパン」というのなら、クールじゃない自分たちを根底から変えるくらいの、覚悟を持って職務に邁進して欲しい。

くじ(9)iPad上のFlipboard経由のニュースでは、しばらく前からSOPAの話で持ちきりだった。日本は蚊帳の外でウィキが止まるとなってやっと報じる。それくらい日本は遅れている。その責任はサブカルの人たちにあるのではない。大学や官公庁などのエスタブリッシュメントにこそある。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。