2012年3月31日土曜日

もはやメジャーなんかない、みんなオタクでいいんだよ

もみ(1)あれは昨年の暮れの頃だったか、新聞を読んでいたら、「今年いちばん売れた」としてある本が紹介されていたのだけれども、タイトルも著者名も初見だった。へえ〜と思ったが、未だにどんな本なのか知らない。どうやらミステリーかサスペンスらしいんだけれども。

もみ(2)それで、昨日、ある大手出版社の編集者と打ち合わせしていて、「最近どうですか」と聞いたら、「いいんですよ!」と答えが返ってきた。それで、なんとかという本のタイトルを言って、「売れてます。ドラマにもなりましたから」と言うけれども、そのドラマの題名が初耳である。

もみ(3)私が怪訝な顔をしていると、編集者が、ちょっと不満そうに、「今クールで一番視聴率が高かったんですよ」と言ったが、知らないものは知らない。それで、話題は次に行ってしまったが、街を歩いているときに思いだして、ああ、世の中はもうそうなってしまっているんだなと思った。

もみ(4)かつては誰もが知っているヒット曲とか、ベストセラーがあったとはよく言われる話である。ところが、100万部とか売れても、もはやある「セグメント」の中のことでしかない。そのセグメントを外れると、誰も知らない。変化をもたらしたのは、インターネットと、グローバル化だろう。

もみ(5)ネットの発達によって、自分の志向に合った情報源に手軽に接することができるようになった。その結果、それぞれの小宇宙が発達した。逆に言えば、かつて「マスメディア」が時代の流行を作っていたときは、いかに「全体主義的」だったかということがわかる。

もみ(6)もともと、人間というものはそれぞれ見ている世界が異なる。同じ家族でも、食卓に座る場所によって光景は異なる。マスメディアの寡占がそもそも異常なことだったのであって、人類の文化史から見れば、ごく一時期の、特殊な状況だったということなのだろう。

もみ(7)100万部売れる「ミステリー」や、「今クールで一番視聴率の高いドラマ」だって、それに興味がない人はつきあう必要がない時代になった。逆に、インターネットは世界中の情報をもたらすから、日本のドラマよりもアメリカのドラマやイギリスのコメディに詳しい人が出て来る。

もみ(8)もともと、私の周囲ではトレンディ・ドラマに出ている俳優よりも、チューリングやゲーデルの方がよほどメジャーである。以前はそれでもマスメディアに付き合っていたが、困ったことにネットのお蔭で、自分の好きなチューリングやゲーデルの情報をいくらでも深掘りできるようになった。

もみ(9)アニメを深掘りする人も、趣味の植物を深掘りする人もいる。そして、その向こうに広がる小宇宙では、同好の士がおいでおいでをしている。比べるとマスメディアの最大公約数は薄味だ。結果として、メジャーだろうがそんなもの知らない、そんな時代になったのはおそらく歓迎すべきなのだろう。