2011年11月19日土曜日

物理学帝国主義はすっかり過去のものとなったが、理論すら存在しないという現状は、生物学、脳科学など多くの分野で続いている

ぶり(1)国際研究グループ「OPERA」が、ニュートリノが光速よりも速く到達していたという実験について、再実験をしても同じ結果が得られたと発表した。相対性理論が修正を迫られるのかどうか、関心を集めている。

ぶり(2)この点についての、益川敏英さんの反応が面白かった。私がナビゲーターをつとめたTokyo FMの「未来授業」で、聴衆の学生に質問されて、一言「ガセネタです」と言って、会場を沸かせていた。確かに、今回のニュートリノ実験は突拍子もなく、自 然観に整合させるのが難しい。

ぶり(3)相対性理論は、この宇宙の因果関係がどのようなものか、時間や空間の構造がどうなっているかということについての根本的な法則で、現代の物理学 はすべて相対論との関係で緻密につくられている。今回の実験が、その意味で、調子外れであるということは、多くの物理屋が感じるところだろう。

ぶり(4)そもそも、ニュートリノが光速よりも速く動くならば、1987Aのような超新星爆発の際に、光よりも速くニュートリノが地球に到達しているはずで、今回のニュートリノ実験は、この宇宙について私たちが知っている様々な事実と、整合性がとれない。

ぶり(5)もちろん、従来の理論では説明できない新たな観測事実が登場することで、パラダイムが変化するというのがこれまでの物理の歴史だった。従って、今回の実験が、最終的にどのような評価になるかは、今後の検討を待たなければならない。

びり(6)ところで、かつて「物理帝国主義」という言葉があった。化学や生物学などの他の科学の分野は、最終的には物理学に回収されるという考え方である。最近では聞かれなくなったのは、生物学や情報科学など、具体的な現象が面白い分野が増えてきたからだろう。

ぶり(7)ある現象が出た時に、従来の理論が揺るがされるという関係が成立するのは、それだけ理論が緻密にかつ網羅的に作られているからである。それに対 して、生物学や脳科学では、そもそもそんな理論がない。だから、事実だけが積み重ねられて、揺るがされるべき理論がない。

ぶり(8)Natureのエディターをしていたマドックスが、「分子生物学は科学か」という文を発表して論議を呼んだのは、1980年代だったか? 今回のニュートリノ騒動は、物理学が、理論と実験が緻密に絡む分野として、依然として科学の規範であることを示している。

ぶり(9)先日、Society for Neuroscienceに出席して、膨大な量の研究発表を見ている時に感じたのが、まさに「まだ理論がない」「理論すらない」ということ。計測や解析と しての数学はあっても、脳はこう振る舞うはずだと予言する理論は、存在しないのである。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。