2011年12月16日金曜日

てんでんこで生きる

てい(1)津波がくるときは、てんでんばらばらに必死に逃げる「津波てんでんこ」の考え方を広めた山下文男さんが亡くなった。一度お目にかかってお話をうかがいたいと思っていた方。その教えは、ずっと受け継がれることだろう。ご冥福をお祈りいたします。

てい(2)山下さんの「津波てんでんこ」の考え方を実践して登校していた生徒が全員助かったのが、「釜石の奇跡」と呼ばれた鵜住居小学校、釜石東中学校の事例(http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1072/20110519_01.htm)である。私も現場に立ったが、津波の怖ろしさと、教えの大切さが身にしみた。

てい(3)釜石東中学校で生徒たちを指導していた森本晋也先生に現場でお話をうかがった。ふだんから、津波が来そうなときはてんでんばらばらに逃げろ、と指導していたのだという。その際、ポイントになることがいくつかあると森本先生はおっしゃった。

てい(4)一つは、他の人もまた、てんでんこで逃げているだろうと、信頼すること。他の人は逃げているかな、だいじょうぶかなと探しにいくと、そのことで避難が遅れて、津波に巻き込まれてしまうかもしれない。

てい(5)もう一つは、「目指す場所」を確認しておくこと。高台のあそこに集まる、とあらかじめ合意が出来ていれば、てんでんばらばらに逃げても、落ち合 うことができる。他人を信頼することと、目的地を共有すること。これが、「てんでんこ」の思想だと森本先生はおっしゃった。

てい(6)「津波てんでんこ」は大災害から身を守る三陸の方々の智恵が詰まった考え方である。身体が弱い方を助けるなどのケースはもちろん例外であるが、てんでんばらばらに逃げた方が助かる人が増えるというのは、数理モデルなどでも確認ができる方法論であろう。

てい(7)さらに、「てんでんこ」の考え方には、私たちの生活全体につながるヒントがあるように思う。特に、今日のようにインターネット、グローバル化と いう「文明の波」が押し寄せている時代には、他人が何かをするのを待っているのではなく、てんでんばらばらに自分でやるのが良いのではないか。

てい(8)変化には、独自の判断で必死に行動する。やるべきことを自分でやる。そんな中で、他の人もまた、自分の判断で対応しているだろうと信頼する。さ らに、最終的に何を目指すのか、「ヴィジョン」を共有する。そんな「てんでんこ」の考え方は、現代人の生き方一般に通じる。

てい(9)状況が変化しているのに、他の人は何をしているのだろうと模様眺めしていては、遅れてしまう。てんでんばらばらにベストを尽くす。そんな生き方が求められている時代なのではないか。今日も一日、精一杯生きよう。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。