2011年12月21日水曜日

相手のおもしろさに一秒目から耳を傾けてから、名刺は最後に渡せばいいよ、もし持っていて、渡したいんだったら

あめ(1)Mountain ViewのGoogle本社で行われたScience and Technologyの会議に出席したときのこと。夕方、カクテル・パーティーのようなものがあって、みんなで外でだべっていた。創業者のLarry Pageもふらふらしていた。

あめ(2)たまたま同じテーブルに座ったのが、髪の毛がちりちりで長い男と、帽子をかぶったダンディーな紳士。脳の話や、インターネットのこと、私の研究テーマのクオリアのこと、政治のことなど、いろんなことをああでもないこうでもないと議論していた。

あめ(3)髪の毛がちりぢりで長いやつも、帽子を被ったダンディーも、なんだかやたらに面白くて、興味深い人物だった。とくに自己紹介とかしないで話していたので、果たしてこいつら誰なんだろう、と思いながらも、まっ、いいかと思って、そのまま議論をしていた。

あめ(4)そしたら、パーティーがお開きになるというので、このあとも連絡を取り合おう、というんで、「ところで、誰なんだっけ?」と帽子をかぶっている 紳士の方が名刺(Name card)をくれた。髪の毛長いちりぢりの方は、名刺を持っていなかった。ぼくも確か持っていなかったんじゃないか。

あめ(5)名刺をみて、あじゃっと思った。http://www.edge.org/ をやっている、有名なliterary agentのJohn Brockmanと、VRの先駆者の一人、Jaron Lanierだった。ああそうか、だから話が おもしろかったんだと納得した。

あめ(6)この話のポイントは、John Brockmanも名刺を持っていたことは持っていたけれども、まずは実質的な会話に1秒の猶予もなく入っていって、「おお、オモシロイネ」となって、相 手に興味をもって最後に別れて連絡先欲しいなと思ったときに、初めて名刺を交換するということ。

あめ(7)日本人が最初に名刺を交換するのは、相手の組織や肩書きを知らないと、安心して話せないからだろう。でも、科学や技術や文化の実質的なことにつ いて、ストレートに見解を交換するのに、組織や肩書きは要らないよね。名刺をもらっても、どうせ、ある半減期で消えていくし。

あめ(8)人間はどんな文化でも、そこに適応していくもの。日本で名刺交換が盛んなのは、組織や肩書きで実際に仕事をしたり、関係性を結んだりしている場 合が多いからだろう。一方瞬時に実質的な会話に入っていく社会は、組織や肩書きと関係なく、アイデア勝負で仕事をしている。

あめ(9)肩書きや組織が大好きな日本の社会にも何かメリットはあったんだろう。はっきりしていることは、現代文明のもっとも熱き進捗の場において、名刺 文化は邪魔でしかないということ。ぼくは、初対面の瞬間から、その人の一番熱い思想に耳を傾けるのを好みます。そうでないと、つまらんね。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。