2011年12月24日土曜日

黒魔術じゃなくて白魔術をかけろ

くし(1)「すべての発達した技術は、魔法に似ている」と書いたのは、確かアーサー・C・クラークではなかったか。そんなことが起こるとは思わないのに起 こる。これが魔術(magic)である。それは、不意打ちに私たちの人生に訪れ、そして私たち一人ひとりの存在を変えていく。

くし(2)そもそも、私たちがこの世に誕生した経緯が、魔術に似ている。なんだかしらないけれども、気付くといるのである。最初は無明で、次第にはっきり してくる。大人になるとずうずうしくなって生きることに慣れてきてしまうけれども、この世界にいること自体が本来魔術でなくてなんだろう。

くし(3)人間関係でも、魔術はある。なぜかわからないけれども、自分に誰かが好意を寄せてくれる。人間はそれぞれ無意識を抱えており、そこからなにがわ きあがってくるかは本人にも分からない。だから、好意や愛は、本人にとってもそれを受ける人にとっても、一つの魔術である。

くし(4)魔術には白魔術と黒魔術が存在するということをある時知った。黒魔術(black magic)とは、自分のゆがんだ欲望を実現しようとしたり、あるいは相手を貶めようとするもの。一方白魔術(white magic)とは、愛や美といった、よきものをこの世界にもたらすもの。

くし(5)時に、自分や他人に黒魔術ばかりかけている人をみかけることがある。やたらとぼやいて、揶揄し、生きる力を失わせる人たち。内田樹さん(@levinassien)の言うところの、「呪いの言葉」。そんなことを言うくらいだったら、黙っていればいいのに、敢えて言ってしまう。

くし(6)一方、他人を勇気づけたり、前向きにしたり、傷ついている人を癒したりする「白魔術」の言葉をかける人もいる。同じ言葉をかけるならば、こちらの方がいい。そして、白魔術をかける人は、自分の中にもともとそれが満ちていて、外にあふれてくるのであろう。

くし(7)魔術(magic)というのはもちろん比喩で、自然法則を超えたものがあるわけではない。ただ、「魔術学」というものがあるらしく、そこで言わ れていることが面白い。つまり、白魔術と黒魔術は、目的が違うだけで、本来は同じところに由来するのではないかという考え方である。

くし(8)他人に呪いの言葉をかける人も、育む言葉をかける人も、本当は懸命に生きようとしているのだろう。感情としては、同じなのに、外に出る結果が違う。負の感情があっても、それを正の感情へと転化して、白魔術使いとなることこそ、私たちは目指すべきなのではないか。

くし(9)それでも、黒魔術をかけている人がいたら、ああ、この人も生きたいんだな、だけど、未熟だから、こんな他人を貶めるようなことしか言えないんだ な、と温かく見守ってスルーしよう。そこに、黒が白に転化する契機がある。白魔術師になった方が、自分にとっても世界にとっても絶対に 良い。

※ ここに掲載している内容は茂木健一郎さん(@kenichiromogi)のTwitterからの転載です。